2021〜2023

精神科の薬について知っておいてほしいこと-日本評論社-の著者でイギリス人精神科医のモンクリフ教授

2023.6.25up

シンポジウム

『精神科の薬について知っておいてほしいこと』(日本評論社)の著者でイギリス人精神科医のモンクリフ教授が来日し、下記のとおりシンポジウムが開催されます。

同シンポジウムでは、モンクリフ氏とともに、国立精神・神経医療研究センター(NCNP)で処方薬を含む薬物依存の研究をされている松本俊彦精神科医と、精神科患者が病院ではなく地域で生活できるよう支援活動をされている高木俊介精神科医も講演されます。

現在の精神医学では統合失調症やうつ病は脳内のドーパミンの過剰やセロトニン等の不足によって起きるものとされていますが、これはあくまでエビデンスのない仮説にすぎません。しかし現実には、このような「脳内の異常な化学的不均衡を修復する薬」として、抗精神病薬や抗うつ薬をはじめとする向精神薬が日々大量に処方されています。そしてその結果、ジストニア・ジスキネジアなどの神経筋症状やそれ以外にも様々な副作用や離脱症状に苦しむ人々が世界中で大勢生み出され続けています。

この精神医療に特有の(製薬会社の利権とマーケティングを背景とする)歪みの構造については、これまでにも何人かの良心的な著者によって批判の書が書かれてきましたが、昨年翻訳が出たモンクリフ教授の冒頭の著書は、向精神薬を全否定するわけではないものの、それが人間に及ぼす作用について根本から見方を変えるべきことを提言しています。

すなわち、身体科の薬のように向精神薬が脳機能の特定の異常個所を修復し正常化している(疾病中心モデル)のではなく、むしろ向精神薬そのものが脳と身体の機能に不自然な全般的変化を及ぼしている(薬物作用モデル)との見方に立つべきであると述べています。その場合の変化がもたらすものは、人によっては鎮静、多幸感だったりしますが、逆に不安の増大、自律神経系の異常だったりもします。また、こうした変化は精神疾患の有無にかかわらず、服用するすべての人に等しく起きます。

もしも精神医療がこのような見方にシフトできれば、ある向精神薬が患者の精神状態・感情・行動にどんな作用を及ぼすかを有用性とリスクの両面からもっと慎重かつ具体的に考えることができるようになり、そのことが患者のより自律的な治療選択につながるでしょう。危険な依存と離脱症状をもたらしうる長期服用も可能な限り回避するようになるでしょう。

現在の精神医療はそのような理想とは程遠い状況ですが、こうした正当な提言に耳を傾ける関係者が増え、現状が改善していくことを切に望みます。

同著ではその他にも、薬の種類ごとの具体的な問題点や離脱に関する注意点が指摘され、向精神薬の利用者と精神医療従事者の双方にとって役立つ情報や考えるヒントがたくさん盛り込まれています。                                          

興味のある方はシンポジウムに参加されるとともに、事前に同著を一読されるとより理解が深まるものと思います。

※薬剤性(急性と遅発性があります)ジストニア・ジスキネジアは、抗精神病薬以外でも抗うつ薬や抗てんかん薬など中枢神経に作用する薬の多くで発症します。                                             

【シンポジウム】
精神科の薬を問い直す―薬を使うこと、やめることに関して知っておいて欲しいこと

講  演
ジョアンナ・モンクリフ(会場参加)
松本俊彦(会場参加)
高木俊介(会場参加)
カリ・ヴァルタネン(ビデオレター)
リフレクション
内服経験者/村上純一/松本葉子
東京大学駒場Iキャンパス21KOMCEE レクチャーホール
京王井の頭線駒場東大前駅下車
オンライン同時配信
2023年8月5日(土)13:30-16:30
日⇔英逐次通訳つき
お申込み先 http://ptix.at/AME5lc
参加費無料
定員 会場参加:150名 オンライン同時配信:300名(オンライン100名の定員に達したため300名まで増やしています。)             

『精神科の薬について知っておいてほしいこと』(日本評論社、2022年)の著者ジョアンナ・モンクリフ教授を日本に招へいしシンポジウムを行います。  

モンクリフ教授は初めての来日となります。モンクリフ教授と国立精神・神経医療研究センター・精神保健研究所・薬物依存研究部長松本俊彦氏、『精神科の薬について知っておいてほしいこと』の訳者の1人高木俊介氏による講演を通して、精神科の薬の問題について考えます。        

※本シンポジウムは記録のために録画させていただきます。                                           

※本シンポジウムはJSPS科研費(22K00268)「精神疾患の知の枠組みの再検討:領域多元主義と相互作用モデル」(研究代表:石原孝二)の助成を受けています。                                                                    

https://www.facebook.com/photo/?fbid=9721882634550088&set=a.3331452643593151


厚生労働省の重篤副作用疾患別対応マニュアル-ベンゾジアゼピン受容体作動薬の治療薬依存-に改定要望書を提出しました

2022.11.15up

ベンゾジアゼピン受容体作動薬(ベンゾ)は睡眠薬・抗不安薬・鎮静剤として、またてんかん・頭痛・めまいなど幅広い症状に対して使用されてきた薬で、日本人の十数人に一人が服用していると言われます。ジストニア・ジスキネジアを含む神経筋症状の治療薬としても使われています。

その一方で、ベンゾは2~4週間を超える連用により身体依存を形成しやすく、いったん依存形成すると急な減断薬により様々な離脱症状を発症する恐れがあります。ジストニア・ジスキネジア様の神経筋症状もその一つであり、ベンゾはジスの原因薬にも治療薬にもなりえます。ベンゾのこうしたリスクは西欧などでは早くから指摘され、1980年代から規制が進んだ国もあります。

それに対し、日本では最近まで多くの医師がリスクを軽視し、患者に対して「長年飲み続けても安全な薬」などと説明してきたため、気づいた時には薬を減らせなくなっていた患者さんや、依存していることを知らずに飲み続けている人、自己判断での減断薬や飲み忘れ等により心身に不調を来しているのに原因が分からず苦しんでいる人など、様々な状態の人がいると思われます。

依存・離脱症状の程度は個人差が大きく、全体としては皆無から軽症で済む人が多いですが、20~30%の人が離脱で苦労し、そのうち3割が悲惨な経験をすると、ある研究者は述べています。適切な対応が遅れたため辛い離脱症状に長期間苦しむことになった方々は全国では相当な数に上ると予想され、当会の会員さんでも外部の関係者からもそのようなケースを見聞きします。

国は2017年に添付文書への依存・離脱症状の記載を命じるなど一定の対応策は講じましたが、まだ現在は改善に向けた過渡期にあり、問題は積み残されています。適切なインフォームドコンセントはまだほとんど普及していないと思われます。

患者個々人に合わせた慎重な減断薬を遂行できる医師・医療機関も限られており、離脱症状や後遺症を抱えて行き暮れている方々も多いでしょう。

そんななか、厚生労働省は今年2月、重篤副作用疾患別対応マニュアル「ベンゾジアゼピン受容体作動薬の治療薬依存」を公表しましたが、その内容はきわめて不十分なものでした。そこで当会はこのたび関係者に呼びかけて、同マニュアルの改定を求める要望書と参考資料を作成し、11月10日に同省の医薬安全対策課に提出しました。後日面談も行う予定です。

状況改善に向けた一助となるよう最善を尽くしたいと思います。

◆「ベンゾジアゼピン受容体作動薬の治療薬依存」全文は以下で参照できます。
https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1j27.pdf

◆同マニュアルの改定を求める要望書
https://drive.google.com/file/d/1ItHwFTnynk82MHgR99_yiUe6pjGdnm8Q/view?usp=share_link

◆参考資料(参考資料2と5は個人情報保護の観点から削除しています。そのため目次のページ数は実際とズレています。)
https://drive.google.com/file/d/1liu0hwpAHbV9FQPnsrCUsyyrXeDCvTpj/view?usp=share_link


国内初の遅発性ジスキネジア治療薬-ジスバル-が発売されました

2022.6.10 UP

国内初の遅発性ジスキネジア治療薬「ジスバル」(一般名バルベナジン)がようやく6月1日に田辺三菱製薬から発売され、患者さんが利用できる状況になりました。遅発性ジスキネジアは進行すると難治化しやすく、改善効果を保証できる決定的な治療薬がこれまで存在しなかったため、この新薬に期待をかける方は全国に大勢いらっしゃると思われます。

ジスバルの添付文書は、以下のPMDA検索ページに「ジスバル」と入力してEnterキーを押すとご覧になれます。

https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuSearch/
(一般患者向けに簡略に記した「患者向医薬品ガイド」、治験結果の詳細まで記した薬剤師向けの「インタビューフォーム」も参照できます。)

以下の日経メディカルの記事も参考になります。
https://medical.nikkeibp.co.jp/…/update/202205/575179.html

記事にも記されているように、様々な副作用の可能性がある点には十分注意する必要があります。また、循環器系の禁忌や服用上の注意事項にも留意してください。

遅発性「ジストニア」の場合は適応にならないか疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。ジストニアには本来、姿勢異常のみならず運動性のある症状(一定の筋収縮パターンが断続的に起きるため体の一部がユラユラ揺れるなど)も含まれ、実際には遅発性ジスキネジアとの区別が曖昧になっている面があります。また、遅発性ジスキネジアと遅発性ジストニアの間に薬理的な発症機序の違いが明らかになっているわけでもありません。そのため、医師の判断で処方される可能性もあるかと思われます。

他方で、副作用リスクや禁忌、過敏症などとの関連から、遅発性ジスキネジアの診断であっても特定の患者さんに対して医師が処方を見合わせる場合も考えられます。効果を維持するには飲み続けなければならない点も、併せて考慮する必要があるでしょう。

こうした点に留意してもなお、改善効果のベネフィットが上回る患者さんは一定の割合でいらっしゃるものと推測します。

救われる患者さんが少しでも多いことを願います。


重篤副作用疾患別対応マニュアル-ジスキネジア-が改訂されました

2022.6.10 UP

厚生労働省は今年2月、重篤副作用疾患別対応マニュアル「ジスキネジア」を11年ぶりに改訂しました。

https://www.pmda.go.jp/files/000245263.pdf

旧マニュアルは情報の古さや不備が目立つ内容になっていたため、当会は3年前に改訂担当者に詳細な修正要望書を提出していました。そのかいもあってか、新マニュアルでは随所に概ね妥当と思える修正が入りました。

遅発性ジスキネジアに関して、第一世代と第二世代の抗精神病薬で発症率に以前考えられていたほどの大差はないことや、ベンゾジアゼピン等でも発症しうることが明記され、患者の実際の重症感を軽んじるような記述や誤解を招きそうな統計値が削除され、薬物治療の内容が一新され、重症の場合に検討しうる脳深部刺激療法(GPi-DBS)の説明が追記され、全体として早期の発見と対処が重要なこと、症状を見逃さないよう努めるべきことが強調されました。

現状を鑑みて8割方は満足できる内容になっていますが、まだ完全とは言えません。遅発性ジスキネジアの説明で呼吸器の症状に触れられていないことはその一つと言えます。

横隔膜などの呼吸筋にジスキネジアを発症する呼吸器(呼吸性)ジスキネジアは、遅発性ジスキネジアの7%の患者に認められるとする文献があります。呼吸困難感や胸部痛が自覚され、重症化すると生命のリスクが生じる場合もあるとされています。

当会の会員さんでも呼吸困難を訴える方が何人かいらっしゃり、全国ではそのような方々が相当な人数に達する可能性があります。

医師の間でもまだ認知度が低いようで、脳神経内科の主治医から呼吸困難感を心因性の症状として片付けられたとの報告も受けています。こうした誤解を無くすため、このマニュアルにはあと一押しの追加修正が必要と言えます。

遅発性ジスキネジアについては、総合的な参考情報が乏しく、このマニュアルのたった10ページほどの記述が重要な意味を持ちます。(同マニュアルでは「抗パーキンソン病薬投与時のジスキネジア」についても解説されています。)


日本ボツリヌス治療学会が-認定施注医-を公表しました

2021.5.30 UP

日本ボツリヌス治療学会が今年から「認定施注医」を審査・決定し、患者向けにホームページで公表し始めています。

ここをクリックしてください。

それぞれの医師について、原則として月1回以上施注している疾患名を認定分野として表示しています。

ジストニアの場合、現在保険診療として公認されているボツリヌス治療の対象疾患は、眼瞼痙攣、痙性斜頸、痙攣性発声障害の3つです。(ジストニア専門医の下では、病状に応じて適切な範囲内で様々な部位に施注される場合があります。)

現在表示されている医師はまだ一部に過ぎず、今後審査を申し込む医師が増えるにつれ、表示される医師名も日を追って増えていくものと予想されます。

ボツリヌス製剤のメーカーから施注資格だけ与えられた医師はすでに数多く存在しますが、実際に患者を相手に経験を積んでいる医師はまだ限られています。

この「認定施注医」一覧は、特に地方在住のジストニア患者にとって、比較的近距離圏で一定の経験のある医師を探すためのツールとして機能することが期待されます。


遅発性ジスキネジアの治療薬開発につながる可能性のある新発見がありました

2021.5.15 UP

先月16日、遅発性ジスキネジアの治療薬開発につながるかもしれない新発見に関するニュースリリースがありました。

詳細についてはこちらのサイトで参照できます。

京都大学大学院薬学研究科の金子周司教授を中心とするグループの研究により、解熱鎮痛薬のアセトアミノフェンを併用することで遅発性ジスキネジアの発症を抑えられる可能性があることが、新手法ともいうべきビッグデータ解析と動物実験を通じて明らかになったそうです。

また、アセトアミノフェンの体内代謝物が特定の脳内イオンチャンネルに作用していることも明らかになり、アセトアミノフェンの長期使用に伴う肝障害リスクを回避する形での創薬に向けた道筋が浮上しつつあるようです。

この研究成果がいずれ新たな治療薬に結実し、全国の数多くの遅発性ジスキネジア患者が安価な専用薬を利用できる日が訪れることを心から願います。

(アセトアミノフェン自体の作用には、長期または大量使用による肝障害の他に依存症のリスクもあります。)