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【ジストニア・ジスキネジアとは】

注:このページをご覧の方は必ず免責事項をお読み下さい。

 

 身体の一部または広範囲の筋肉が自分の意思に反した(不随意な)収縮や運動を起こし、姿勢保持や動作が困難になる病気を、ジストニア・ジスキネジアといいます。語義的にはそれぞれ、「異常な(ジス)筋緊張(トニア)」「異常な(ジス)運動(キネジア)」を意味します。ジストニアでは、多くの場合何らかの動作や環境条件に応じて、特定の筋肉がいつもほぼ同じパターンで緊張・収縮し、身体の一部または広範囲に異常なねじれや屈曲その他の不自由な状態が生じます。ジスキネジアでは、特定の筋肉がリズミックで不規則な運動を起こします。ジストニアもジスキネジアも、身体の様々な部位に発症する可能性があります。

◎ジストニア・ジスキネジアの具体的な症状

〔目〕

・目が勝手に閉じようとする、目を開けにくい

・光に対して異常なまぶしさや痛みを感じる

・目に不快感・異物感を感じる

・瞬きが多い

・目がいつも乾いている

〔首〕

・頭部が前や後、左や右(斜め)に傾く(前屈・後屈・側屈)

・頭部が右や左に回ってしまう(回旋)

・頭位が前後や側方にずれる(前方偏倚・後方偏倚・側方偏倚)

・背中から頸部までが曲がる(側弯)

・片側の肩が上がる(肩の挙上)

・首から肩にかけてジーンとくる重い痛みがある

・頭部が前後や左右に揺れ動く、ぐるっと回る(※)

〔口・顎・舌〕

・口が開かない、閉じない

・下顎が左右にずれる、前に突き出る

・舌が突き出る、硬直して動かない、反り返る

・吹奏楽器奏者が音を出せない

・口をもぐもぐさせる、唇をすぼめる(※)

・舌がくねくね動く(※)

〔のど〕

・声が詰まる、途切れる、震える

・ささやき声になってしまう

〔上肢〕

・手指をコントロールできず、字が書けない(書痙)

・箸を使えない、理容師がハサミを扱えない

・ピアニスト・ギタリスト・バイオリニストなどが楽器をうまく弾けない

・手が勝手に不規則に動いてしまう(※)

〔下肢〕

・足がねじれる、突っ張る

・足先が屈曲する

・足が勝手に動いてしまって歩きにくい(※)

・足指がクネクネ動く(※)

〔体幹〕

・身体が左右や前に傾く

・身体がねじれる、ゆがむ

注1:(※)はジスキネジアの症状です。

注2:目の症状ではまぶたの不随意な収縮だけでなく、強いまぶしさや異物感・痛みなどの感覚異常を伴うことが多く、感覚異常の方が主症状になることもあります。

注3:以上のうち複数の症状が併発したり、複数の領域に拡がることもあります。

 

◎ジストニアの特徴

上記の具体的な症状があり、下記の特徴のいずれかまたは複数に該当する場合は、ジストニアの可能性が高くなります。具体的な特徴例については、各部位のページをご覧ください。

〔定型性〕異常な姿勢や運動には患者ごとに一定のパターンがある

〔動作特異性〕特定の動作や環境条件によって症状が出たり、憎悪したりする

〔感覚トリック〕特定の感覚刺激によって一時的に症状が軽減する

〔共収縮〕互いに拮抗関係にある筋が同時に収縮する

〔早朝効果〕起床後しばらくの間、症状が軽減する

 

◎治療

 ジストニアの治療法については、『ジストニア診療ガイドライン 2018』(南江堂)やそれを補足するものとして『CLINICAL NEUROSCIENCE 2020年9月号 ジストニアupdate-診療ガイドライン2018を超えて』(中外医学社)など、参考になる様々な書籍が出ています(前者はネットでも参照できます。https://www.neurology-jp.org/guidelinem/dystonia_2018.html)。

 本ホームページでは、各病型のページ(眼瞼痙攣、痙性斜頸(頸部ジストニア)、口顎舌ジストニア・ジスキネジア)に独自情報を加えた説明を記載しています。これらの病型以外の説明は今後追加していく予定です。

 遅発性ジスキネジアの症状・治療法については、下記Bのほか、厚生労働省がホームページに掲載している『重篤副作用疾患別対応マニュアル ジスキネジア』(2009年5月公表、2022年2月改定)も参照してください。

 ジストニア・ジスキネジアを引き起こす可能性のある薬については、同マニュアルの末尾にある一覧表が参考になります。なお、その一覧表には記載されていませんが、眼瞼痙攣の場合は抗不安薬や睡眠薬に使われるベンゾジアゼピン受容体作動薬による発症例が多いことが判明しています。

 

◎病院情報

 ジストニア・ジスキネジアの治療が可能な病院の詳細情報を、会員の交流の場(mixiの非公開コミュニティ)に掲載し、医師・関係者の話や患者さんからの生の報告をもとに随時更新しています。コミュニティへの参加を希望される方は、当ホームページの「入会・お問い合わせ」から入会申込書の記入画面へと進んでください。

 

A ジストニア

 ジストニアの国内患者数は、少し前までは病院での疫学調査をもとに10万人あたり15~20人、全国で2万人程度と言われていましたが、未診断や誤診に終わっているケースが非常に多いと予想されるため、現在では軽微な症例まで含めると数十万人に及ぶとの推定も出てきています。言い換えると、ジストニアは従来考えられてきた以上に身近な病気である可能性があります。

 

 ほとんどの場合、発症はある日突然、体のどこかの筋肉に、自分の意思に反した動きやこわばりや痛みを感じるところから始まります。目のジストニア(眼瞼痙攣)では不自然なまぶしさの感覚から始まることもあり、のど(声帯)のジストニア(痙攣性発声障害)では声の奇妙な出しにくさに気付くところから始まります。全体として見ると、局所性(身体の一部分まで)のレベルに留まるケースが患者の大部分を占めますが、日常生活で重要な機能を担う目・首・舌・顎・のど・手・足・体幹などの使用が困難になるため、たとえ軽症であっても生活や仕事に不自由が生じ、休職や失職に追い込まれることが珍しくありません。生命や知能が侵される病気ではありませんが、進行すると外出もままならなくなるため、周囲の人が考える以上に本人にとって辛い面のある病気です。

 

 発症の詳しい原因は解明されていませんが、運動命令を自動的にコントロールしている大脳基底核や小脳などの神経ネットワークに異常が起きているものと考えられています。とはいえ、脳画像検査を受けても、(脳血管障害によるジストニアなど一部の例外を除くと)異常は検出できません。特に思い当たる原因もなく発症することがある一方で、職業的な反復動作、脳性麻痺その他の脳障害、向精神薬の服用や急な減断薬などが発症の引き金になる場合もよくあります(職業性・二次性・薬剤性ジストニア)。パーキンソン病その他の神経変性疾患の症状としてジストニアが出ることもあります。遺伝性のジストニアもあり、2018年5月時点で29種類の原因遺伝子が見つかっています。

 

 このように相異なるいくつかの類型・要因があり、病原が画像や数値で測定されず、発症部位も具体的症状も重症度も患者によって多様であるため、この病気の本質や全体像にはどこかつかみ難い面があります。はっきりした理由が思い当たらないまま、比較的短期間のうちに悪化や軽快が進むことがあるのも、そのようなつかみ難さの一面です。

 

 精神状態と症状との関係も微妙で、誤解されやすい面があります。患者さんの中にはうつ病や抑うつ傾向を示す人が比較的多いため、一般に精神的ストレスとジストニアの発症・悪化との間には関係があると言われています。この点を踏まえ、できるだけ前向きの気持ちで過ごすよう心掛けることは重要でしょう。

 

 一方、普通のジストニアとは異なる反応を示す心因性ジストニアという特殊な類型がありますが、この類型に対してはボツリヌス治療も外科手術も効かないとされています。ところが、心因性ジストニアの特徴とされている事項の中には、実は普通の患者の一部にも共通に見られるものがあります。たとえば、人前では症状が出るのに、一人でいる時は出ないといったものがそうです。こうした反応は、歩行時は症状が出るのに、座っていると出ないといった「動作特異性」の典型的反応とある意味でほぼ同質のものであり、いわば人に見られる環境への心理的構えが引き金となって起きる自動的反応です。そのような意味においても、精神状態(心理的構え)と症状との関係性はごく普通に存在しますが、一部の医師はそれを心因性ジストニアに特有のものだと考えて誤診してしまいます。普通のジストニア患者が心因性と誤診されてしまうと治療の機会を失うため、これは重大問題となります。他方において、一般の人々はこのようなジストニアの性質を目にすると「気の持ち方の問題ではないのか」といった見方をしがちですが、事はそれほど単純ではありません。このような反応は自動的に起きるため、患者自身では意識的に克服し難いものだからです。

 

 社会一般や医療従事者の間でのジストニアの認知度は、この10年ほどでいくぶん向上してきたようですが、まだ現時点では、上の事例からも分かるように、この病気が十分理解されていると言うには程遠い状況です。心因性の誤診は神経内科でもよく起きているようですが、精神科ではなおのこと、医師が自ら処方した薬の副作用を認めたくないせいか、患者が薬剤性のジストニア(やジスキネジア)を発症しても心因性(あるいは身体表現性、身体症状症)と診断し、元々の精神疾患のせいにしてしまうケースが多いようです。

 

 また、ジストニアは身体の様々な部位に発現するため、患者さんが最初に訪れる科が眼科、耳鼻咽喉科、歯科・口腔外科、整形外科になる場合も多いですが、それらの科での認知度もまだ不十分です。その結果、患者さんが正しい診断と治療に短期間で行き着くとは限らない状況が今も続いています。また、ジストニアの専門医は首都圏や関西地域に集中しているため、遠方の患者さんが専門医の治療を受けようとすると、費用や移動方法の点で苦労することが少なくありません。

 

 ただ、ジストニアを根治する方法はありませんが、痙性斜頸などでは、早い段階から経験豊富な医師のボツリヌス治療を受けることで、ほぼ寛解の状態にまで導かれる患者さんも少なくないようです。目・首・のどへのボツリヌス治療には保険が適用されます。それ以外の部位でも、ボツリヌス治療によって症状を抑えられるケースはいくつかあります(ただし打てる医師は限られてきます)。服薬治療や外科治療、鍼治療なども行われており、それぞれに一定の緩和効果を期待できる場合があります。症状によっては補助具やリハビリも効果的な場合があります。自分の症状に合った治療法を早い段階で見極め、少なくとも現状以下のレベルに症状を抑止できる道筋を見出すことが重要になります。

 

B ジスキネジア

 ジスキネジアでは、まず定義が問題になります。ジスキネジアという病名はまだ統一的に定義されておらず、医師や文脈により異なる意味で使われているからです。最もよく見られる平均的な使い方は、向精神薬(特に抗精神病薬)の副作用により舌・口周り・顔面・首・腕・足・体幹などに起きる不規則でリズミックな不随意運動を中心に、外見上それとよく似た一部の非薬剤性の症状(高齢者で見られる口周りや顎の不随意運動など)も含めるというものです。当会の名称や当ホームページでも、大よそそのような意味を踏まえています。ジスキネジアを薬剤性の不随意運動全体を包括する言葉として使用する例も見られますが、薬剤性の場合でもジストニアとジスキネジアには異なる特性があり、治療方法も部分的に異なってくるため、両者は区別して理解する必要があります。

 

 ジスキネジアを対象とする広域調査は行われていないため、患者さんの数や詳細な実態は不明です。精神科病院で1970年代に始まった多剤併用・大量処方の習慣は、1990年代に第二世代抗精神病薬(非定型抗精神病薬)が登場し、諸外国が単剤化・低用量化に向かうようになった後も、日本では根強く存続してきました。行政が多剤処方の規制に乗り出した2012年前後から、ようやく状況は変わり始め、現在は改善の動きが出てきていますが、これまでに非常に多くの薬剤性ジスキネジア(およびジストニア)の患者さんが生み出されてきたと考えられますし、2020年現在もまだ現場レベルでは、多剤併用・大量処方の習慣が完全に改まったとまでは言えない状況のようです。また、現場の医師の証言や患者の声、関連するデータから、副作用や離脱症状への配慮に欠ける不適切な薬物処方の習慣は、まだ広範に存続していると思われます。

 

 薬剤性ジスキネジアは、脳内の黒質線条体のドーパミン受容体が薬により過剰に遮断される結果起きると考えられています(この点は薬剤性ジストニアも同じです)。そして、症状が一定のレベルを超えて悪化してしまうと、不可逆的な難治性の疾患になりやすいと言われています。そのため、発症後すみやかに適切な対応を取る必要があります。すなわち、精神症状との兼ね合いで可能である限り、原因薬を緩やかなペースで減量または中止し、場合によっては他のより安全な薬に変更しなければなりません。

 

 ただし、ここで注意しなければならないのは、薬剤性ジスキネジア(およびジストニア)は向精神薬の離脱症状でも発症・増悪する可能性があることです。したがって、副作用としてジスキネジア(ジストニア)が発症したからといって、その薬を急に中止したり大幅に減量したりすると、症状がさらに悪化しかねません。向精神薬の減量や中止は緩やかに行う必要があり、特に服用してきた薬の量が多く、期間が長いほどそうです。この点についての知識や注意に欠ける精神科医が多いために、不適切な減断薬によるジスの発症や増悪が多発していることは大きな問題であり、啓発を要する状況となっています。

 

 また、精神科で抗コリン薬  ―  トリヘキシフェニジル(アーテン)やビペリデン(アキネトン、タスモリン) ―  を処方されている場合は、(急性ジストニアや併発したアカシジアに対処する場合を除けば)これを緩やかに減量・中止することが望ましいようです。抗コリン薬はジストニアには有効性がありますが、ジスキネジアに対しては、これを発症・悪化させる可能性があるとされているからです。それにもかかわらず、多くの精神科医がこの両者を区別しないまま、抗コリン薬を抗精神病薬の副作用(錐体外路症状)に対する予防・治療薬として使ってきた習慣があり、その結果かえってジスキネジアを発症・悪化させたケースも報告されています。この点にも注意する必要があります。

 

 遅発性ジスキネジアに対しては、初の治療薬であるジスバル(一般名バルベナジン)が2022年6月から利用できるようになりました。ただし、自殺念慮を含むハイリスクな副作用や他剤との飲み合わせ、循環器系の禁忌、効果を維持するには飲み続けないといけないことなど、注意事項に留意して服用する必要があります(添付文書を参照してください )。

 

 適応外治療になりますが、一部の症例ではボツリヌス治療や外科治療(定位脳手術)が効果的な場合があるようです(概して脳深部刺激療法(DBS)はジスキネジアに対して比較的高い改善効果をもたらすことが分かってきています)。また、一部の精神科病院では修正型電気けいれん療法(m-ECT)が行われていますが、この療法の有効性について確実には予測できないことと、記憶障害などの副作用リスクがあることを念頭に置く必要があります。抑肝散、芍薬甘草湯などの漢方薬処方も試みられており、一部の患者さんから症状の緩和に役立っているとの報告が上がっています。

 

 米国神経学会(American Academy of Neurology:AAN)は2013年、遅発性症候群(遅発性のジストニア・ジスキネジアを含む運動異常症の総称)に対する薬剤の評価で、クロナゼパム(ランドセン、リボトリール)とイチョウ葉エキスの二つを4段階のうち2番目の「レベルB=治療薬として考慮すべきもの」としています。

  

◎ジストニア・ジスキネジア以外の主な不随意運動

自分の意思でコントロールできない不随意運動には、ジストニア・ジスキネジア以外にも以下のように様々な種類のものがあります。

・振戦

 筋肉の収縮と弛緩が規則的に繰り返されることにより無意識に起きるふるえ。

・舞踏症

 ハンチントン病などで手足や顔面を不規則に動かし、踊っているように見える症状。

・アテトーゼ

 脳性麻痺により手足や顔面・舌に起きる、ゆっくりしたねじるような動き。

・ミオクローヌス

  体の一部が電気に打たれたかのように一瞬だけピクッと動く、ショック様の筋収縮。

・アカジシア

  抗精神病薬の副作用で足に不快なムズムズ感が生じ、静座ができずに落ち着きなく動き回る症状。

・バリズム

 脳血管障害で起きる、片側の手足を放り出すような大きな速い動き。

 ・チック

 不快な違和感があるため、片方の肩や口元を繰り返し突発的に動かしてしまう症状。

 

※おことわり

 このページおよび後続ページに載せている症状・治療関連の説明は、様々な医学文献、医師の講演会・談話等での説明、患者の生の声等を当会スタッフが総合的に勘案し、作成したものです。当会はその内容について慎重に検討しました。

 しかしながら、ジストニア・ジスキネジアの症状の解釈や治療法の適否には、まだ一部に不確定な部分が存在し、特定の治療法に対する結果は、医師の手技によっても患者さん個々人の特性によっても異なってきます。ここに載せている情報を参考にされる場合は、それらの点に留意していただくようお願い致します。

 なお、当ホームページのご利用にあたっては、免責事項もご覧ください。