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口・顎・舌のジストニア(ジスキネジア)

注:このページをご覧の方は必ず免責事項をお読み下さい。

 

  口・顎・舌のジストニアは、中枢神経系(脳)の異常により、下顎を頭蓋骨につないでいる筋肉や口唇部・舌の筋肉が意思に反した収縮を起こし、口唇が引きつったり、口を開閉できなくなったり、舌を動かせなくなる病気です。症状の部位が口唇の場合は口唇ジストニア、顎の場合は口顎ジストニア、舌の場合は口舌ジストニアとも呼ばれ、一まとめに顎口腔ジストニアという言葉も使われています。収縮ではなく運動を起こす場合はジスキネジアに該当し、口をもぐもぐさせたり、顎や舌が不規則に動くようになります。眼瞼痙攣や痙性斜頸など、他の部位のジストニアを伴うこともあります。

 

 口・顎・舌のジストニアを発症する患者さんには、ストレス下で口を使う職種の人(営業担当者、コールセンター従業員、保険外交員、受付、アナウンサー、吹奏楽器奏者など)が高い比率で見られることから、この部位のジストニアには全体として職業性ジストニアの傾向があるようです。また、向精神薬の副作用でこの部位のジストニア・ジスキネジアを発症する人も、相当な数に上ると考えられます。薬剤性以外では、高齢者がこの部位のジスキネジアを発症しやすいと言われています。

 

 全体の中で最も多いのは閉口ジストニアで、重症化すると自力では口が全く開かなくなります。次に多いのが開口ジストニアで、中には顎が外れてしまう症例もあるようです。また、舌が突出するタイプのジストニアでは、口内に収めようとした舌が前歯の内側を圧迫するため、歯がぐらぐらになったり抜けたりするケースがあります。口唇のジスキネジアが悪化した場合は、前歯が口唇部を貫通してしまうケースさえあるようです。すべての場合で、症状が進行すると会話や食事に困難をきたす上に、容姿の上で障害となり、痛みを伴うこともあるので、日常生活上の不便さや苦痛が大きくなります。

 

 口・顎・舌のジストニアの患者数については、従来の推定よりはるかに多いと考える専門家もいます。薬剤発症の患者さんが、全体の患者数を押し上げていることも考えられます。

 

 しかしながら、比較的多い患者数に比べ、病気の認知度は非常に低く、診療体制も不十分な状態にあることは、大きな問題と言えます。特に、本来はこの分野を対象にしているはずの歯科口腔外科での認知が全く進んでいないことが、最大の問題です。歯科で治療を受けた患者さんは顎関節症やブラキシズム(歯ぎしり)等の誤診を受けることが圧倒的に多く、顎関節疾患に対する手術を受けてしまうケースもあるようです。今のところ京都医療センター歯科口腔外科医長の吉田和也先生が、この分野の専門家として学会に対応されている状況で、その他には、神経内科のジストニア専門医の中に、ボツリヌス治療などを行う先生がごく少数いらっしゃるだけです。この部位ではボツリヌス治療が保険適用になっておらず、このことが認知度の低さと並んで大きな障害であり、乗り越えるべき課題となっています。

 

○発症の誘因

・ストレス下で口を使う仕事を続けていた

・向精神薬の服用、急な減薬や断薬

・何らかの歯の治療(抜歯、入れ歯の作製その他)を受けたり、口の中をかむなどの外傷があった

 

○具体的な症状

・口が開かない(閉口ジストニア)、閉じない(開口ジストニア)

舌が外に出てしまう(舌前突ジストニア)、硬直する、左右に偏る、反り返る

・下顎が左右にずれる(顎偏位ジストニア)、前に突き出る(顎前突ジストニア)

・口唇部がひきつる

・口をもぐもぐさせる(※)

・顎がガクガク動く(※)

・舌がクネクネ動く(※)

 

「※」はジスキネジアの症状。

 

○口・顎・舌のジストニアの特徴(ジスキネジアには当てはまりません)

・症状の位置や方向性はいつも一定のパターンを取る。〔定型性〕

・食事の時は問題ないのに、しゃべろうとすると口が段々開いてしまうなど、特定の動作の時だけに症状が出る。(ただし、進行するにつれ、症状が常時出るようになることもあります。)〔動作特異性〕

・ガムやあめ玉を口に入れる、爪楊枝やたばこをくわえる、マスクをする、顎に指を添える等の動作により、一時的に症状が軽くなる〔感覚トリック〕

・起床後しばらくの間(人により1~2分から数時間まで)は症状が軽くなる。(ただしこの傾向は、症状の進行とともに消失することもあります。)〔早朝効果〕

 

○セルフチェックリスト

 口や顎の筋肉に無意識に力が入ってしまったり、動いてしまうという症状がある方は、原因がジストニアである可能性があります。次の質問に答えることにより、ジストニアの可能性がどの程度あるかが分かります。

1.口と顎の筋肉に無意識に力が入って動いてしまう。

2.力が入る場所と方向(口を閉じる、開ける、舌が前に出るなど)はいつも同じ。

3.一定の運動(話す、食べる、口を開けるなど)のときだけ症状が出る。

4.何か(ガム、あめ、マウスピースなど)口の中に入っていると症状が楽になる。

5.寝ているときには症状はまったくない。

6.朝起きたときは症状がなく、あるいは軽く、その後次第に症状が出てくる。

7.現在、精神科の薬を飲んでいる。あるいは以前飲んでいた。

8.緊張あるいはリラックスすることによって症状の程度が変化する。

9.歯や入れ歯の治療後、または歯や顎に怪我をした後に症状が出てきた。

10.他のジストニア(痙性斜頸、眼瞼痙攣、書痙など)の治療を受けている。

 

2~3項目あてはまれば、口と顎のジストニアの可能性があります。

4~5項目あてはまれば、可能性が高いです。 

6項目以上あてはまれば、可能性がきわめて高いです。

※このセルフチェックリストは吉田和也先生が作成されたものです。先生のご了承を得て転載させていただきました。

 

○治療法

1.服薬治療

 ジストニアの場合は、トリヘキシフェニジル(アーテン)を含む抗コリン薬やバクロフェン(リオレサール)など、ジスキネジアの場合はチアプリド(グラマリール)やクロナゼパム(リボトリール)などが使われるようです。軽症例では有効な場合が多いようですが、副作用が出ることもあります。

2.スプリント治療

 比較的軽症の場合、マウスピース(スプリント)を使うことで、完全には治せなくても、感覚トリックにより症状が軽減する場合があるようです。ただし、神経内科ではマウスピースを作れないので、神経内科から適切な歯科に紹介していただくしかありません。今現在、一般の歯科医院では口のジストニアとしての治療を受けられませんが、ジストニア専用の物でない普通のマウスピースでも効果が出る場合はあるようです。

3.ボツリヌス治療

 口・顎・舌へのボツリヌス治療は国内ではまだ適用外ですが、欧米では推奨されており、症例によっては高い改善効果が出るようです。誤った位置に打つと嚥下障害や呼吸障害をきたすおそれがありますが、経験値の高い少数の専門医がこの治療に取り組んでいらっしゃいます。

 口周りには異なる筋肉がいくつも走っているため、治療を続けるなかで、痙性斜頸の場合と同様な「モグラ叩き」(症状の見かけのパターンは大きく変わっていないのに、治療の影響で原因筋が変わる現象)が起きることもあるようです。どの筋肉が緊張しているかを見極めながらの治療となります。

 基本的にはジストニアを対象としますが、ジスキネジアでも明確な効果が出ることがあり、使用を検討できる場合があります。ただし、使用するかどうかは、あくまで症例ごとの判断となります。

4.MAB(Muscle afferent block)治療

 国立病院機構宇多野病院院長の梶龍兒先生が考案された治療法で、局所麻酔薬のキシロカインとエタノールを筋肉内に注射し、筋緊張センサーとして働く筋紡錘の活動を弱めることにより、緊張を緩和するというものです。ボトックスが普及する以前にジストニア治療に使われていましたが、ボトックスの普及後も、顎や舌のジストニア治療では、患者への効果や費用負担軽減の点でボトックスを補足しうる手段として使われることがあります。

5.外科手術

 重度の閉口ジストニアで口が全く開かないか、開いてもごくわずかという症例に対しては、側頭筋が付いた下顎骨の筋突起を切ってしまう筋突起切離術が適用されます。全身麻酔で1時間半から2時間ほどの手術です。明確な改善効果が出るようですし、保険も適用されます。

 

※専門的な解説については、以下の吉田和也先生のホームページをご参照ください。

https://sites.google.com/site/oromadibulardystonia/